〈テーマ〉 東大教師が新入生にすすめる本
〈設 問〉 ① 私の読書から――印象に残っている本 ② これだけは読んでおこう――研究者の立場から ③ 私がすすめる東京大学出版会の本 ④ 私の著書(近刊も含む)
① 私の読書から――印象に残っている本
『マラルメ詩集』ステファヌ・マラルメ著 渡辺守章訳 岩波文庫 2014
「ほんとうに思考しうる人間」になるためには、「孤独」にならなければならない。TVのバラエティーとかSNSのようなおしゃべりに慣れた生活をしていては「ほんとうに思考する人間」にはなれない。君は、まずモーリス・ブランショの言う「本質的な孤独」(『文学空間』)を経験するのでなければならない。そのためには、「詩」の「言葉」との遭遇が必要だ。本質的な孤独のなかで対話することができる沈黙の言語との出会い。それは私にとってはマラルメの詩であった。大学に入ったころから次第に接近して、二十代から三十代の中頃まで、私自身の存在の住処となった『マラルメ詩集』。いまでも全ての詩を原語で暗唱できる詩人だ。渡辺守章の畢生の名訳からの接近を推奨する。
② これだけは読んでおこう――研究者の立場から
『グーテンベルクの銀河系
-- 活字人間の形成』マーシャル・マクルーハン著 森常治訳 みすず書房 1986
M. マクルーハン『グーテンベルクの銀河系 活字人間の形成』はなんとも落ち着きの悪い書物だ。北を指す磁石の針のように、いつも危なっかしく、はかなく揺れて、それでも、いつも北の方角を指し示す。知の踏査には、そんな書物も必要だ。今、学問は複雑化して、学際性を際立たせているから、手前の山々から登り始めて、その向こう側に聳える山脈の高い峰を君は目ざさなければならない。いまどの山に登り、その向こうに聳える高峰はどの山なのか、ときにポケットから取り出して、自分の位置を確かめてみる、危なっかしく、針ははかなく揺れて、しかし、方図を指し示してくれる、磁石のような本として、君の知の道具立てに加えておけばいいだろう。
③ 私がすすめる東京大学出版会の本
『日本政治思想史研究』丸山真男著 東京大学出版会 1983
『日本政治思想史 十七~十九世紀』 渡辺浩著 東京大学出版会 2010
丸山真男『日本政治思想史研究』。いわずと知れた日本思想史研究の古典。丸山はフランスのミシェル・フーコーに匹敵しうる二十世紀後半の知の巨人だ。と同時に、東大生ならば、南原繁、矢内原忠雄、丸山と連なる、啓蒙思想家の系譜をよく捉え返し、我が思索と行動を振り返るよすがとしよう。現在の時点から、丸山が扱おうとした問題系に親しむためには、渡辺浩『日本政治思想史 十七~十九世紀』から入門するのが最良の道だろう。
④ 私の著書(近刊も含む)
『デジタル・スタディーズ』全三巻(『1メディア哲学』『2メディア表象』『3メディア都市』)、石田英敬・吉見俊哉・マイク・フェザーストーン編 東京大学出版会 2015
21世紀のメディア研究のためのマニフェスト。「知のデジタル転回」の最前線を提示しえていると思う。『大人のためのメディア論講義』 ちくま新書 2016
私のメディア理解と石田記号論の要諦を説いた入門書。メディアの問題から現代文明を理解する視点を提起しているので、ご一読を。
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