2018年4月14日土曜日

「ネットと情報の自由『北海道新聞』各自各論 2018年4月14日(土)7頁

「ネットと情報の自由」

『北海道新聞』各自各論 2018年4月14日(土)7頁

問われる「情報の自由」
 米フェイスブック(FB)から八千七百万人分の個人情報が流出して、データ分析会社により米大統領選でトランプ陣営のために不正利用されたのではないかという疑惑が明るみに出て、世界最大のソーシャルメディアへの信頼が揺らいでいる。
 二十億人を超えるユーザが、実名で、(任意ではあっても)職業や学歴や趣味を登録し、「友だち」ネットワークを公開し、日常生活の写真や動画を投稿、「今何している」や「気分」といった書き込みをおこない、日々刻々と幅広く個人の情報を掲載していく、FBのサービスだから、流出の影響は計り知れない。
 基本的にタダで利用できるソーシャツメディアでは、FBに限らず、プライバシーポリシーやデータポリシーを読み、内容を把握して利用しているユーザは少ない。ユーザは、写真を投稿したり、メッセージをやり取りしたり、「いいね」を押したり、友だちを拡げたり、便利な無料サービスの受け手、一方的な受益者と考えがちだが、それはあくまで物事の一面である。
 じっさいには、それらユーザの活動の履歴は、データとして蓄積され、分析され、整理され、相互に関連づけられてマーケティングのために販売される。
 試みに、FBに広告を掲載するためのページを覗いてみるとよい。地域・年齢・性別・言語・趣味・関心・行動、から、人びとの範囲・つながりの度合いまで、細かくセグメント化してターゲットに届くように、広告を設定することができるようになっている。ユーザのあなたひとりの情報が収集されて活用されるだけではない。あなたの友人、友人のまた友人、そのまた友人、・・・に及ぶまで情報は収集されうる(ページの設定次第だが)。「いいね」を押さなくても、どのユーザがそのページを訪れたか、どの広告を見たかまで捕捉されて履歴が活用される可能性がある。
 ミツバチの飼育に喩えると分かりやすいだろう。
 FBのようなプラットフォーマー(情報基盤の提供企業)は、養蜂業者のようなもので、巣箱を用意して、ミツバチたちに提供する。タダで招待された、ハチたちは「友だち」を呼び寄せて、日々の生活圏の花畑から様々な情報を花粉や蜜として運んで来てせっせと生態系をつくる。プラットフォーマーは、そのようにして集められた情報データをマイニング(多量なデータを解析して有用な情報を抽出すること)して、顧客である企業政党・団体に売って利益を上げる。
 広告主の意を受けて、特定の花畑にハチたちを誘導して注文に応じた蜜づくりをさせるコンサル会社やマーケティング会社も介在している。
 こうしたマーケティング活動は、経済に限らない。現在では政治もまたマーケティング活動によって担われている。今回の事件で、不正な情報操作を疑われるデータ分析会社は、トランプ選挙を担った極右サイトのバノン氏が経営陣に名を連ねていた。同社は英国EU離脱の国民投票においても同じような工作をした疑いも浮かんできている。ロシアの諜報機関系の会社が関与していたという疑惑の調査も米議会では目下進められている。
 ソーシャルメディアは、利用者の側の、無邪気な無知と集団的無意識、提供サイドの意図的な計算と高度なテクノロジーという、現代世界に拡がった、非対称な知識ギャップにもとづいて、産業として成り立っているのである。
 この新しいメディア環境では、フェイクニュースというあだ花や毒草で世論を惑わせたり、特定の花畑へとミツバチたちを政治的に誘導しようとする情報戦が仕掛けられ、世論が集団感染させられうることが分かってきた。
 いままで暢気に利用していきた個人ユーザたちにも、知らない間に、誤った方向へと集団的に方向づけられていく危険があることが分かってきたのである。
 日本ではFBの利用者は、二千八百万人程度と言われる。今回のことは決して対岸の火事ではない。我が国でも電通のような大手広告代理店が自民党の政治マーケティングを担当してきている。憲法改正が議論されているが、現在の「国民投票法」では、英国EU離脱国民投票やトランプ米大統領選で行われたとされるような情報操作に対する歯止めがない。
 個人も社会も、インターネットを公共の基盤としていまいちどとらえ直し、「情報の自由」とは何かをよく考えるべき時に来ている。


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