2019年10月19日土曜日

『北海道新聞』コラム各自核論2019.10.18朝刊7頁「資本主義で経済格差拡大 - 資産の再配分検討必要」

『北海道新聞』石田英敬コラム各自核論2019.10.18朝刊7頁 

「資本主義で経済格差拡大 - 資産の再配分検討必要」


 メディアでは消費税の増税と景気への影響ばかりが話題にされているが、それでよいのだろうか。
アメリカでは6月に著名投資家のジョージ・ソロス氏やディズニー創業家など、人口の最富裕層1パーセントのさらに10分のⅠに属する最も裕福な資産家たちが「自分たちにもっと課税する時がきた」と「資産税」の導入を政策化するよう来年の米大統領選の候補者たちに呼びかける公開書簡を公表した。日本でも投資家の村上世彰氏などが格差解消のために家計・企業への資産課税を提唱している。現代資本主義の「勝ち組」ともいえる人びとが、資産への課税の強化や新しい税制度を主張する背景には、経済格差の極端な拡大により現在の資本主義が行き詰まり、貧困や不安、暴動や戦争が迫りつつあるという深刻な認識と危機感が見てとれる。
世界はいま、過去数十年つづいてきた資本主義一辺倒の経済を見直して、より公平な社会のために新たな税制度や富の再配分の政策を考えなければならない時期にきているのだ。米大統領選の民主党候補として頭角を現してきたエリザベス・ウォーレン氏の掲げる政策にもこうした問題意識が色濃く反映している。
 『21世紀の資本』(邦訳2014)という資本主義と経済格差拡大との関係を膨大な歴史データにもとづいて明らかにした本が世界的なベストセラーとなったフランスの経済学者トマ・ピケティが、その続編ともいえる『資本とイデオロギー』(英語版は来年3月刊行予定、邦訳については不詳)を先月刊行した。原著で1200頁を超える前作以上の大著だが、欧米だけでなく世界のあらゆる地域に研究を拡げて経済的不平等の世界史を描き出し、資本主義に修正を加えて「公正な社会」をめざす大胆な提言を打ち出している。再び大きな議論を呼びそうである。
ピケティが唱えるのは「参加型社会主義」という考え方だ。(「え、いまどき社会主義?」と驚かれる読者も多いはずだ。私もそのひとり。)だが、著者の考えでは、不平等や格差は決して自然なことでも、仕方がないことでもない。「これしかない」と現状を固定して社会を考えさせられていることが「イデオロギー」で、その考え方と制度設計を変えること(それこそ「政治」の力)で社会のあり方は劇的に変化する。
 ピケティがとくに強調するのは、資産の再配分政策である。相続税だけでなく年間資産税を導入することで、人口一パーセントが国の総資産の二五〜三十パーセントを持ち、十パーセントの高所得層が国民総所得の三十五〜四十パーセントを占めるような現在の不平等な社会から資産の移転と再配分を引き起こす。資産への課税制度によって恒久的な私的所有制から「時限的な所有制」へと社会は移行すべきだというのである。
再配分政策によって得られた資産を元手に「万人相続制」を導入する。25才人口への「ユニバーサルな資本分与」だという。平均的な国民資産の約6割(フランスでいえば一人当たり1400万円相当程度)を若い人に「相続」させ、それを元手に住居購入や起業を可能にする。
さらに、ドイツや北欧にみられる、企業における労使の高度な共同経営制度を導入することで、「社会的所有制」へと進むのだという。そして、公教育への巨額の投資によって、文化資本の偏在を是正する。
 これらの政策によって、「参加型社会主義」を打ち立てるというのである。
 どれもハラハラさせられる「刺激的な」内容だが、一笑に付してよいのか?分厚い歴史研究とデータ分析の書を読み進めていくとまんざら空想的と片付けられない説得力をもっている。レーガン、サッチャー以来の資本主義万能のドグマから脱却した「次の世界」のための議論が各国で拡がりつつあるといえそうだ。
 

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