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石田英敬教授(情報学環・フランス語)推薦の言葉
電子辞書を条件付きで「推薦」する!
皆さんもお分かりでしょうが、計算機を使い始めると計算能力は落ちるということはよく知られたことです。「機械」が「脳」の演算の「代わり」をしてくれるからです。電子辞書に、単語を覚える「代わり」をしてもらおうなどと考えると間違いなく「語学力」は落ちます。このことを決して忘れないでください。
「辞書」は「読む」ものであって、「外国語」は「聴いたり・読んだり」して「脳」を使って「記憶」し「学習」するものです。現在までのところ市販されている「電子辞書」もほとんどすべては通常の「辞書」として作られた「読むための本」にすぎません。「電子辞書」は、「脳」による「記憶」と「学習」の代行は決してしてくれないのです。そのような代行システムを求める人には、むしろ外付けの「単語モジュール」を「脳」のなかに直接埋め込むことを薦めますが、幸か不幸か、そのようなシステムはまだ開発されていません。
さて、このような重大な留保をつけたうえでなお電子辞書を推薦するとすれば、それはひとえに電子辞書の「軽さ」という純粋に物質的な理由によります。なにしろ合計すれば何十キロの重量にも達する10冊以上もの辞書を持ち歩かなくてもよくなったのですから、これほど便利なことはないのです。あなたは電車のなかでもまるで図書館にいるように勉強することができる。通学時間も、食堂の一角で過ごす時も、あるいは恋人とのデート中でも彼/彼女がトイレに立った合間など、あらゆる時間と場所を、いつでも「勉強」に充てる時空間へと一瞬のうちに変貌させることができるのです。素晴らしいことではありませんか!ただし、ここでもまた注意が必要です。辞書は頁をめくったり、鉛筆をなめなめ印をつけたり、頭髪を掻きむしったり、鼻糞をほじくったりしながら、言葉の意味とにらめっこするために存在しています。つまり、身体のいろいろな部位を使って「読み」、「学習する」ために出来ているのです。ところが「電子辞書」には、「身体」の経験が成立する場がほとんどありません。電子辞書は、図書館の書棚の間を言葉の意味を求めて探し回るときのような「アフォーダンス」(手がかり)を、あなたに与えてくれたりはしないのです。一瞬見つかった言葉の用法も、画面がスクロールされれば、液晶画面の闇のなかに消えてしまいます。だから、出来るだけ実物の辞書をあなたは使いましょう。そして、満員電車のなかでだけ、そっと「電子辞書」を取り出して言葉を覚えましょう。
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