2018年6月17日日曜日

日本経済新聞 2018年6月9日朝刊 「今を読み解く:21世紀の監視社会」石田英敬


 「人間は生まれながらにして自由である、しかし、いたるところで鎖につながれている」とは、ルソーの「社会契約論」の有名な冒頭だが、人間はいまやいたるところでネットにつながれている。不思議なことに、ひとびとはそれがいったいどのようなことなのか、つとめて考えないようにして暮らしているかのごとくだ。
 2013年エドワード・スノーデンが、NSA(米国家安全保障局)により世界規模の網羅的な情報監視体制が敷かれていることを内部告発した。オーウェルの小説「1984年」をはるかにしのぐ超監視社会に私たちが暮らしている実態が明かされたのである。アカデミックな監視研究の権威、カナダの社会学者デイヴィッド・ライアンは『スノーデン・ショック』で警告する。監視はいまや「監視国家」の活動にとどまらず、IT企業の経済活動とも融合して社会全体が「監視社会」と化し、モバイル機器やソーシャルメディアの活用をとおして市民もまた「監視文化」に組み込まれている。
 ビッグデータとは、その監視社会の原理であり、とりわけメタデータ(通信記録、電話番号やID,通信時間、など)を管理下におくことであらゆる情報の照合、追跡、検索が可能となる。安全安心を合言葉に、国家と企業と市民の三位一体となった監視体制が出現する。
 便利でタダで汎用性がある、これまで手にしたことのない自己表現メディアでさえあるソーシャルメディアに、ひとびとは喜びさえおぼえて無邪気にプライバシーを公開する。そのツイート、メール、写真の投稿が、携帯機器のGPS情報、フェイスブックやツイッターの友人関係、いいねやリツイートを通して市民の相互監視に寄与する。くわえて、モノのインターネットIoTが一般化しつつあるとなれば、一挙手一投足が四六時中至るところで監視される。
 フランスのジャーナリストと作家が『ビッグデータという独裁者』で告発するのは、グローバル企業と国家による情報監視体制が一体化した不可視の独裁である。IT企業は便利と引き換えに自由を奪う。ユーザがタダでせっせと産み続けるデータは、データ経済にとって「新たな石油」ともいうべき資源であり、GoogleApple, Facebook, Microsoftの四企業だけで全人類の個人データの80パーセントが占有されている。進行しているのは、グローバルな寡頭支配であって、ヨーロッパ人らしい人権意識、法治原則で、データ支配による独裁に歯止めをかけようというのが著者たちのスタンスである。
 シリコンバレーの起業家というインサイダーの目から、IT企業によるリバタリアン的な経済制覇をレポートして見せたのが、アンドリュー・キーンの『インターネットは自由を奪う』。ウーバーやインスタグラム創業者など名だたる企業家のパーソナリティのじつに具体的な描写に富む。インサイダーならではのドキュメンタリー。勝者総取りの経済により、1パーセントの富裕層による99パーセントの総資産の独占はいかに可能になったか。インスタ映えのアプリが発明されただけで、いかにコダックの町全体が廃墟に沈んだか。トランプ大統領選出の謎が解けた思いがする。
 考えても仕方がないほど知識や力関係が非対称的なとき、ひとは考えないことをえらぶ。ビッグデータ社会を理性的に統御することは可能か。新しい社会契約が求められている。宮下紘『ビッグデータの支配とプラバシーの危機』は地に足の着いた、ぜひ一読を勧めたい一冊である。「権利としてのプライバシー」を再定義することから始めよう。すべてがデータとなり万人がネットにつながれた現在の世界において、「ネットワーク化された自我を造形する権利」としてプライバシーを定義し、そこを起点に自由・尊厳・尊重を作り直すこと。プライバシーと民主主義の法理が分かりやすく説かれている。

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