2021年1月2日土曜日

[『トビウオと毒薬』予習編 1]

 毒薬 [どく/くすり](ファルマコン)

Pharmakon (philosophy)

https://en.wikipedia.org/wiki/Pharmakon_(philosophy)


Pharmakos

https://fr.wikipedia.org/wiki/Pharmakos


http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0173%3Atext%3DPhaedrus%3Asection%3D275a


ソクラテス 

よろしい。ぼくの聞いた話とは、次のようなものだ。―― エジプトのナウクラティス地方に、この国の古い神々のなかのひとりの神が住んでいた。この神には、イビスと呼ばれる鳥が聖鳥として仕えていたが、神自身の名はテウトといった。この神様は、はじめて算術と計算、幾何学と天文学、さらに将棋と双六などを発明した神であるが、とくに注目すべきは文字の発明である。ところで、一方、当時エジプトの全体に君臨していた王様の神はタムゥスであって、この国の上部地方の大都市に住んでいた。ギリシア人は、この都市をエジプトのテバイと呼び、この王様の神をアンモンと呼んでいる。テウトはこのタムゥスのところに行って、いろいろの技術を披露し、ほかのエジプト人たちにもこれらの技術を広くつたえなければいけません、と言った。タモスはその技術のひとつひとつが、どのような役に立つものかをたずね、テウトがそれをくわしく説明すると、そのよいと思った点を賞め、悪いと思った点をとがめた。このようにしてタムゥスは、ひとつひとつの技術について、そういった両様の意見をテウトにむかって数多く述べたと言われている。それらの内容をくわしく話すと長くなるだろう。だが、話が文字のことに及んだとき、テウトはこう言った。

「王様、この文字というものを学べば、エジプト人たちの知恵はたかまり、もの覚えはよくなるでしょう。私の発見したのは、記憶と知恵の秘訣なのですから。」―― しかし、タムゥスは答えて言った。

「たぐいなき技術の主テウトよ、技術上の事柄を生み出す力をもった人と、生み出された技術がそれを使う人々にどのような害をあたえ、どのような益をもたらすかを判別する力をもった人とは、別の者なのだ。いまもあなたは、文字の生みの親として、愛情にほだされ、文字が実際にもっている効能と正反対のことを言われた。なぜなら、人々がこの文字というものを学ぶと、記憶力の訓練がなおざりにされるため、その人たちの魂の中には、忘れっぽい性質が植えつけられることだろうから。それはほかでもない、彼らは、書いたものを信頼して、ものを思い出すのに、自分以外のものに彫りつけられたしるしによって外から思い出すようになり、自分で自分の力によって内から思い出すことをしないようになるからである。じじつ、あなたが発明したのは、記憶の秘訣ではなくて、想起の秘訣なのだ。また他方、あなたがこれを学ぶ人たちに与える知恵というのは、知恵の外見であって、真実の知恵ではない。すなわち、彼らはあなたのおかげで、親しく教えを受けなくてももの知りになるため、多くの場合ほんとうは何も知らないでいながら、見かけだけはひじょうな博識家であると思われるようになるだろうし、また知者となる代りに知者であるといううぬぼれだけが発達するため、つき合いにくい人間となるだろう。」

(プラトン,藤沢 令夫. パイドロス 『プラトン全集5 饗宴 パイドロス』岩波書店 2005、254~256頁)


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「骰子遊び(le jeu de dés)とは二個の骰子を同時に投げて1から6までの36通りの組み合わせで2から12までの合計数を出すことを無限に繰り返す結合法combinatoireの遊びである。この〈技術〉によってランダムな偶然の生起が〈数の言語〉に翻訳される。宇宙は無秩序で無数の偶然の出来事に満ちているが、骰子遊びは偶然の出来事を、一定の身ぶりの反復と数の組み合わせに還元する。『パイドロス』で、ソクラテスが、テウト神の技術的発明として、文字とともに、算術と計算、幾何学と天文学、「チェスπεττείαと骰子κυβεία」をあげていることは決して偶然ではないのだ 。チェスはゲームをマス目の空間にプロットし、骰子は偶然性を数の言語に変換する。あらゆる偶然の出来事をこの装置のなかに呼び込めば、宇宙の生成変化は、結合法と確率をめぐるゲームのなかに集める-- ハイデガーの技術論になぞらえれば宇宙の偶然を〈集- Gestell〉する --ことができる。」

(石田英敬「詩の言語と数の言語」Language_Information_Text_v25-1.2018.12.20

東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻 [編] 10~11頁

https://drive.google.com/file/d/16ktXbPAjNIZgun8YY0kEY4CiH7EQf5Qk/view


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