2019年8月15日木曜日

「夏休みのためのフランス語 ひよこ自習クラス」プロジェクト(第3回)

石田フランス語 2017/08/15
 「夏休みのためのフランス語 ひよこ自習クラス」プロジェクト(第3回) 
    
みんな元気かな。
今年はどうやら秋が早そうだね。稲穂がもう色づいている。
クマが出るという注意の放送がときどきあってクマ鈴をつけて朝の散歩にでかける。
お盆休みで、UPが少々遅れました。
でも、ほぼほぼ毎週というペースで、「フランス語の自主夏期講習」第三回を始めましょう。
 前回は、『カンディード』の第一章を読み始めたが、今回からはもう少し速く進めるはず。

(図版を参照するためには 配布資料をDLしてください。PDFファイル版

I. 『カンディード』第1章(つづき)


[1] 第一章 第二パラグラフ 
Monsieur le baron était un des plus puissants seigneurs de la Vestphalie, car son château avait une porte et des fenêtres. Sa grande salle même était ornée d’une tapisserie. Tous les chiens de ses basses-cours composaient une meute dans le besoin ; ses palefreniers étaient ses piqueurs ; le vicaire du village était son grand aumônier. Ils l’appelaient tous Monseigneur, et ils riaient quand il faisait des contes.

とくに難しい文法事実はないパラグラフだね。直接法半過去で語られているのは、過去における状態の記述だからだ。一文ずつ見ていこう。

1 Monsieur le baron était un des plus puissants seigneurs de la Vestphalie, car son château avait une porte et des fenêtres.

- 授業ですでに言ったと思うけれど、Monsieur はMon sire, あるいはMon seigneur が語源の尊称。称号とともに使うときには、称号には定冠詞をつけます。
Monsieur le Président (大統領閣下), Monsieur le maire(市長殿) のようにね。Madameについても同様。

- un des plus puissants seigneurs: “un de”については以下。
━un, une; ((複数形)) uns, unes
[不定代名詞]
1 …の一人,の一つ.
un des hommes les plus remarquables de ce temps.
現代で最も注目すべき人物の一人.
un de ces jours
近いうちに.
Gide est un de mes écrivains préférés.
ジッドは私の好きな作家の一人だ.
Je vous enverrai un de mes ouvriers.
私のところの工員の一人をお宅へやりましょう.

- “car” :
[接続詞]
なぜなら,というのは,その証拠には.
Il n'est pas venu aujourd'hui, car il est malade. (= parce que)
彼は今日は来なかった,病気だからね.
L'ordinateur ne sera jamais capable de faire face à toutes les situations imprévues, car il ne possède pas l'aptitude d'adaptation spontanée du cerveau. (= en effet)
コンピュータがあらゆる不測の事態に対処しうるということはまずあり得ない.というのも,コンピュータには人間の頭脳のもつ当意即妙性はないのだから.
[注]car は parce que よりも因果性が弱い.原因,理由よりも説明,確認を示す場合が多い.また,car が parce que と置換可能の文でも car によって始まる節が文頭に来ることはなく,必ず後置される.

Monsieur le baron était un des plus puissants seigneurs de la Vestphalie, car son château avait une porte et des fenêtres.
男爵殿はヴェストファーレンの最も権勢ある君主のお一人であった、なぜなら彼の城館には扉が一つ、それに窓が幾つかあったのだから。
もちろんこの文章はアイロニカルで、「扉が一つに…」以下は風刺だね。

2 Sa grande salle même était ornée d’une tapisserie.
これも難しくないね。
- être ornée de :これは受動態の復習だね。前置詞がdeの場合(石井 p.39)
- même :ここは副詞で、Sa grande salleにかかるんだよ。下の二番目に近い用法で、語順は、後ろの語句にかかったり、前の語句にかかったりするから、最初は少し戸惑うかもしれない。所有形容詞のsaなんだけど、ここは男爵様のということ、つまり「彼の」
 Même sa grande salle était ornée d’une tapisserie. と語順がちがってもここはほぼ同じ意味になる。

même
[副詞]
1 …でさえも,…すら;であっても.
Son habileté étonnait même les professionnels.
彼の腕前は専門家さえ驚かせた.
Même les plus sages [Les plus sages même]se trompent parfois.
どんなに分別のある人でも時には間違える.
Même pour lui, c'est impossible.
さすがの彼もそれは無理だ.
Elle ne me parle même plus.
彼女はもう私に口を利いてくれさえしない.
Il aime sa femme, je dirais même qu'il l'adore.
彼は妻を愛している,崇拝していると言ってもいい.
Cette décision a été prise sans même que les employés soient informés.
従業員に知らせることもせずに,この決定が下された.
Même par beau temps, je n'aime pas le bateau.
天気がよくても船はご免だ.
だから、
Sa grande salle même était ornée d’une tapisserie.
そのお城は大広間にさえ一幅の壁掛け(タペストリー)が掛けられていたのである。
(お城にはフツー掛けられているんだよ!だから皮肉な表現)。

3-1. Tous les chiens de ses basses-cours composaient une meute dans le besoin ;
 basse-cour は、お城の構造を分からないと理解できないので、少々解説。


 他人のサイトから借りてきた図像なので精度が悪いのだけど、ヨーロッパ中世のお城(城砦 le château fort )は、だいたい左のようになっています。
 外敵から守れるように出来ているので、お堀に囲まれています。


 入り口は跳ね橋(le pont-levis)になっていて、戦いのときには閉じこもることができる入り口になっている。そのゲートからはいって一段低い中庭(la cour)に入ってくる。そこ低中庭(la basse-cour)。そこからさらに上がると高中庭(la haute-cour)になって、そこに天守閣(le donjon)と領主の館がある、というのが基本構造。
 領主一家は上の高中庭の方を生活空間にしていて、低中庭(la basse-cour)のほうは、普段は、住民たちが出入りして馬や家畜・家禽を飼ったり農作物をつくったりという空間でもある。下の図を見て欲しい。
 そこから、次第に、la basse-courは、『ロベール仏和大辞典』がいうように、ニワトリを飼っている家畜小屋などを指すようになった。
basse-cour [bɑs-kuːR];
((複数形)) ~s-~s
[女性名詞]
(←bas1+cour)
1 (家禽(かきん)や家畜の)飼育場;家畜小屋,鶏小屋.
2 ((集合的に)) 家禽,家畜.
3 勝手用中庭,側庭.
4 騒々しい人.
そこで、
Tous les chiens de ses basses-cours composaient une meute dans le besoin;
男爵様の低中庭の犬たちは必要時(dans le besoin)にはこぞって(tous les …)猟犬の群れとなるのであった。
つまり、固有の猟犬を持っていなかった、というわけだ。

3-2 ses palefreniers étaient ses piqueurs ;
旦那様の馬丁たちは猟犬係となり
つまり、馬丁たちが急ごしらえの猟犬係に扮したというわけ、

3-3 le vicaire du village était son grand aumônier.
村の助任司祭は旦那さまお付きの宮廷司祭となり
つまり村のお坊さんが宮廷司祭に扮した

要するに、つまり、そういうわけだったわけだ!(^_^)

4. Ils l’appelaient tous Monseigneur, et ils riaient quand il faisait des contes.
彼ら(馬丁たちやお坊さんたち)はみんな旦那様をMonseigneur(殿様)と呼んでいたし、旦那様が小話をするときは、(しらけたそぶりなんてせず)さも可笑しそうに皆笑っていた。

分かるね!
l’appelaient の人称代名詞直接目的格のl’(le)については、下の「代名動詞」と一緒に説明してあるから見てください。
tousが分かりにくい、それについては、以下のURLをどうぞ。
http://class.kitakama-france.com/index.php?フランス語形容詞#content_1_2
「北鎌フランス語」いいね! 誰だろうね、このサイトをやっているひと(^_^)。

以上まとめると、
Monsieur le baron était un des plus puissants seigneurs de la Vestphalie, car son château avait une porte et des fenêtres. Sa grande salle même était ornée d’une tapisserie. Tous les chiens de ses basses-cours composaient une meute dans le besoin ; ses palefreniers étaient ses piqueurs ; le vicaire du village était son grand aumônier. Ils l’appelaient tous Monseigneur, et ils riaient quand il faisait des contes.
男爵さまはヴェストファーレンの最も権勢ある君主さまのお一人で、なぜなら、旦那様のお城には門がひとつに窓もそなわっていたからであります。旦那様の大居間ときたらなんとタペストリーが打ち掛けられておりました。平庭の犬たちときたらその時が来たら猟犬の一群と相成りて、馬丁たちは猟犬係に扮しまして、村の坊主が旦那様の宮廷司祭をとなっておりました。みなで旦那様を殿と呼び、旦那様がお話になる小話にゃ、欠かさず陽気な笑い声で応えておりました。
ま、こんなところだね。

[2] 第一章 第三パラグラフ 
Madame la baronne, qui pesait environ trois cent cinquante livres, s’attirait par là une très grande considération, et faisait les honneurs de la maison avec une dignité qui la rendait encore plus respectable. Sa fille Cunégonde âgée de dix-sept ans était haute en couleur, fraîche, grasse, appétissante. Le fils du baron paraissait en tout digne de son père. Le précepteur Pangloss était l’oracle de la maison, et le petit Candide écoutait ses leçons avec toute la bonne foi de son âge et de son caractère. 

一文ずつほぐそう、
1 Madame la baronne, qui pesait environ trois cent cinquante livres, s’attirait par là une très grande considération, et faisait les honneurs de la maison avec une dignité qui la rendait encore plus respectable.


新文法知識2 「代名動詞 le verbe pronominal」
 この文における新学習事項はs’attirait(s’attirer)に出てくる「代名動詞」。石井文法では第10課(p.52 sq.)を見てほしい。
 「主語と同じものを表す目的補語人称代名詞(再帰代名詞)をともなう動詞」のことだ。該当部分だけを取りだそう :
Madame la baronne s’attirait une très grande considération
 直接法半過去を直接法現在に書き換えると
 Madame la baronne s’attire une très grande considération
  attirer (引きつける、引き寄せる)は、単独で使用されれば他動詞
5 〈~ qc+à, sur+qn〉…に〔判断,感情,事件など〕を招き寄せる,もたらす.
Ses discours lui ont attiré des sympathies.
彼はそのスピーチで人々の共感を得た.
Ses procédés lui attireront des ennuis.
あのやり方では彼は厄介な羽目に陥るだろう.
Sa mauvaise conduite a attiré sur lui toute la colère de la ville.
彼の不品行は町中のひんしゅくを買った.
Vous avez attiré à vous la vénération du peuple.
あなたは国民の敬愛を一身に集められた.
Il essaie d'attirer à lui (l'aide) d'anciens membres du parti communiste.
彼は旧共産党員を自分の味方に引き入れようとしている. 
             (辞典項目は断りのない限り『ロベール仏和大辞典』から引用)

この辞典項目を理解するためには、「代名動詞」と「再帰代名詞」の学習より前に、「人称代名詞 pronom personnel」(上記例文の青字)のシステムを学習しておく必要があるね。それは前回も一部参照(cf. 前回p.11)したのだけれど、石井文法では第9課(p.47 sq.)を参照。補足的には次のURLを見てください。http://class.kitakama-france.com/index.php?フランス語人称代名詞



 文例 Madame la baronne s’attire une très grande consideration にもどると、
例えば、
   Sa générosité attire à Madame la baronne une très grande considération.
   (彼女の寛大さは男爵夫人に大きな尊敬の念を引きつける。)
 この間接目的語句à Madame la baronneを人称代名詞に代えると、間接目的格のluiに置き換えられる。
 したがって、
 Sa générosité lui attire une très grande considération.
(彼女の寛大さは彼女に大きな尊敬の念を引きつける。)
 ここまでは「人称代名詞」の間接目的格のお勉強。
 これ以後が「代名動詞」と「再帰代名詞」のお勉強で、
 Madame la baronne s’attire une très grande considération
 のs’(se) のところが「再帰代名詞 pronom réfléchi」で、ここは再帰代名詞が「間接目的」格の用法(石井文法 p.53 [用法] ① b))。
(男爵夫人は大変な尊敬の念を彼女自身に引きつけている(一身に引きつけている))
 まとめると、
 Madame la baronne s’attirait une très grande considération
 男爵夫人は大変な尊敬の念を一身に浴びていた。

構文を原文に戻すと、
Madame la baronne, qui pesait environ trois cent cinquante livres, s’attirait par là une très grande considération,
 関係代名詞節 qui pesait environ trois cent cinquante livres, は良いかな?
-

“livre”は、男性名詞un livre , le livre (本、書物)ではなくて、女性名詞で、英語のポンドとほぼ同じ重量単位。フランスはメートル法の発祥の地なのだが、いまでも毎週街角で立つle marché()で売っている野菜や果物は、livre 単位で売っていることがしばしばなんだよ。

livre [女性名詞]
1 【計量単位】 リーヴル.
(1) 500グラム.
(2) [カナダ語法] 16オンス,0.435キログラム.記号 LB.
(3) [古語] 380~550グラム.旧重量単位で,パリでは489.5グラムとするなど地方ごとに異なっていた.
2 【計量単位】 ポンド(=pound):英国の重量の単位.
3 【計量単位】
livre poids
リベラ:古代ローマの重量単位.約327グラム.
4 ポンド.
(1) 英国の通貨単位.記号£(=sterling).
(2) キプロス,エジプト,アイルランドなどの通貨単位.
5 【歴史】 リーヴル:革命前フランスの貨幣単位.パリ系 livre parisis とトゥール系 livre tournois の2系列があった.
【語源】[<ラテン語 lībra 秤(はかり)(→litron)]

男爵夫人はおよそ350リーヴルの体重があったが、そのせいで、大変な評判を一身に集めていた。 environ は副詞で「およそ、訳」、par là 「そこから、そのせいで」
350リーヴルは、170キロといったところか

文の続きは、
et faisait les honneurs de la maison avec une dignité qui la rendait encore plus respectable.
- 直接法半過去はもう慣れたかな。honneur (n.m.)は名誉だが、ここはイディオムで、
◇ faire les honneurs de la maison (à qn)
(来客を)主人自ら家の中を案内して歓待する.
- avec une dignité qui la rendait encore plus respectable
ここの前置詞句の関係詞節のla が(Madame la baronne)に代わる人称代名詞直接目的語格だね。
   rendre は
   6 〈~ qn/qc+属詞〉…を…にする.[注]属詞として過去分詞を用いるのは古用.
rendre qn heureux
…を幸せにする.
rendre qn responsable de qc
…に…の責任を負わせる.
Le jugement a été rendu public.
判決が公表された.
La spéculation immobilière rend difficile l'acquisition d'un logement et contraint à s'installer loin du lieu de travail.
不動産投機のせいで住宅の取得が困難になり,職場から遠い所に住まわざるを得ない状況になっている.
((目的語なしに)) Ce travail rend nerveux.
この仕事をするといらいらしてくる.

したがって、
「そして、彼女が客たちを堂々と歓待していた、その威厳ぶりが男爵夫人をなおいっそう敬うべき方のように思わせるのだった。」とか、そういう感じでしょう。

だから、まとめると、
Madame la baronne, qui pesait environ trois cent cinquante livres, s’attirait par là une très grande considération, et faisait les honneurs de la maison avec une dignité qui la rendait encore plus respectable.
男爵夫人はおよそ350リーヴルの体重があったが、そのせいで、大変な評判を一身に集めていたし、客たちを堂々と歓待する、その威風は彼女をなおいっそう敬うべき方のように思わせるのだった。

次の文に行こう、
3. Sa fille Cunégonde âgée de dix-sept ans était haute en couleur, fraîche, grasse, appétissante.
ここも文法的には特に難しいことはないよね。語彙表現が少し説明が必要かな。

- était haute en couleur: être haut en couleur
couleur はここでは肌の色ではなく「顔の色」、顔の色が「高い haut」というのは、「血色がよい」という意味です。
 ◇ haut en couleur(s)
(1) 精彩[色彩]に富んだ;変化に富んだ.
personnage haut en couleur
精力的な人物;傑出した人物.
Les récits de J. Kessel sont toujours hauts en couleur(s).
ケッセルの小説は常に波乱に富んでいる.
(2) 血色のよい,赤ら顔の.
  -   fraîche は形容詞 fraisの女性形
frais, fraîche
[fRε, fRεʃ]
6 ((名詞の前またはあとで)) 〔人が〕若々しい,撥剌(はつらつ)とした,元気な,健康な.
une femme de trente ans, belle et encore fraîche
美しく,まだ若々しい30歳の女性.
avoir le teint frais
顔色が生き生きとしている.

- grasse、はgrasの女性形、肉感的な、ぽっちゃりした
- appétisssantは「食欲をそそる、美味しそうな」、ではなく、「魅力的な、情欲をそそる」[初心者は(まだ)女性に言ってはいけません!]
      grasse, appétissante
  une fille grasse et appétissante
  グラマーで肉感的な娘.
だから、
Sa fille Cunégonde âgée de dix-sept ans était haute en couleur, fraîche, grasse, appétissante.
彼女の娘、キュネゴンド(ちゃん)は、17歳で血色よく(美肌で)、若々しく(ピチピチして)、ふくよか(グラマー)で魅力的(セクシー)だった(キャハハ !(^_^))。

そして、次、
4. Le fils du baron paraissait en tout digne de son père.
これも問題なし。
 - être digne de 〜 
2 〈~ de qn/qc〉…にふさわしい,似つかわしい,うってつけの;釣り合った.
roman digne d'un grand écrivain
大作家の名に恥じない小説.
un adversaire digne de soi
相手として不足のない敵.
attitude peu digne d'un juge
裁判官にふさわしくない態度.
vin digne d'un si fin repas
このような高級な食事にぴったりのワイン.
Une telle réponse est digne de lui.
((皮肉に)) それはいかにも彼らしい返答だ.

- en tout : すべてにおいて

だから、
Le fils du baron paraissait en tout digne de son père.
男爵の息子はすべてにおいて父君にふさわしい方のように見受けられた。

5. Le précepteur Pangloss était l’oracle de la maison, et le petit Candide écoutait ses leçons avec toute la bonne foi de son âge et de son caractère.
ここもとくに問題はないように思う。
 - oracle は、ここは「ご託宣を告げる人物」、つまり、「大権威」という意味。
oracle
[ɔ-Ra〔ɑː〕kl]
[男性名詞]
1 (古代ギリシアの)神託,託宣;神託[託宣]所.
l'oracle d'Apollon à Delphes
デルフォイのアポロン神託(所).
Les oracles s'étaient rendus par l'intermédiaire de la pythie ou de la sibylle.
神託はピュティアやシビラなどの巫女(みこ)の口を通して告げられた.
2 神託[神意]を伝える人,巫女,祭司;預言者.
3 (絶対的な)権威者;(その道の)大家,最高権威.
Cet écrivain est l'oracle de sa génération.
あの作家は同世代に絶対的信望[影響力]がある.
Mon grand-père est l'oracle de la famille.
我が家では祖父の言うことは絶対である.
parler comme un oracle
威厳をもって語る.
Ce professeur est considéré comme un oracle de l'économie marxiste.
あの先生はマルクス主義経済学の最高権威[神様]だ.

- foi (n.m.)は、信仰,信心のことだが、ここは la bonne foi 誠意、善意、誠実
 ◇ bonne foi
(1) 誠意,善意.
abuser de la bonne foi de qn
…の善意につけ込む.
homme de bonne foi
善意の人.
être de bonne foi
誠実である.
agir de bonne foi
誠実に行動する.
 
-  tout, toute, tous, toutes は慣れるのに少し時間かかるかな?
tout, toute [tu, tut];
((複数形)) tous [tu], toutes [tut](tout は形容詞,代名詞,副詞のとき,母音,無音の h の前でリエゾンして[tut];tous は形容詞のとき[tu]と発音するが,母音,無音の h の前でリエゾンして[tuz],代名詞のとき[tus])
[不定形容詞]
I ((単数で))
[1] ((定冠詞,所有形容詞,指示形容詞を伴って))
1 …全体,…中,全部の…,すべての….
toute la journée=tout le jour
1日中.
tout le temps
ずっと,いつも.
tout le monde
すべての人々,皆.
toute cette ville
この町全体.
tout cet été
この夏中.
toute sa vie
生涯を通じて.
Il était malade pendant tout le voyage.
彼は旅行中ずっと病気だった.
Je ne connais pas toute l'histoire.
私はその話を全部知っているわけではない.
C'est (là) toute la question [tout le problème].
そこにすべての問題がある,それがただ一つの問題だ.
Tout mon espoir est de le revoir.
私の唯一の希望は彼に再会することだ.
de tout son cœur
心の底から.
dormir tout son soûl
思う存分眠る.
J'ai tout mon temps.
私には時間がたっぷりある.
Cet écrivain exprime l'esprit français dans toute sa finesse.
この作家はフランス精神をそのごく微妙な点に至るまで描き出している.

だから、
Le précepteur Pangloss était l’oracle de la maison, et le petit Candide écoutait ses leçons avec toute la bonne foi de son âge et de son caractère.
家庭教師のパングロス先生は一家の大権威で、若僧カンディードは彼の教えを彼の年令と彼の性格に由来する全幅の信頼をもって聞き入っていたのである。
こんな感じだ。

で、この第三パラグラフ全体をまとめよう。
Madame la baronne, qui pesait environ trois cent cinquante livres, s’attirait par là une très grande considération, et faisait les honneurs de la maison avec une dignité qui la rendait encore plus respectable. Sa fille Cunégonde âgée de dix-sept ans était haute en couleur, fraîche, grasse, appétissante. Le fils du baron paraissait en tout digne de son père. Le précepteur Pangloss était l’oracle de la maison, et le petit Candide écoutait ses leçons avec toute la bonne foi de son âge et de son caractère. 
男爵夫人は、体重が約350リーヴル、それだけの重みの方であったゆえ、非常に大きな尊敬を一身に集めておられたし、一家への訪問客のおもてなし方は威厳たっぷりでござったから、奥方様をさらにさらにご立派な尊敬すべき方にしておったのである。お嬢様のキュネゴンド姫は齢17才、美顔美肌かつとして、ほどよく、殿方をあり。男爵さまのご子息は万事に非の打ち所なくお父様にふさわしき方。お抱え家庭教授のパングロス師は一家の大権威で、若きカンディード君は師の教えに、弱き齢とまっすぐの心根ゆえの全幅の信頼を寄せて聴き入っておったのである。

ま、こんな、かな。


[3] 第一章 第四パラグラフ 
   Pangloss enseignait la métaphysico-théologo-cosmolo-nigologie. Il prouvait admirablement qu’il n’y a point d’effet sans cause, et que, dans ce meilleur des mondes possibles, le château de monseigneur le baron était le plus beau des châteaux, et madame la meilleure des baronnes possibles.

 だんだん、文法的解説は不要になってきたと思われる。だから、加速しよう。分かんないところがあったら質問してね!

1. Pangloss enseignait la métaphysico-théologo-cosmolonigologie.
- la métaphysico-théologo-cosmolonigologie:
la métaphysique(形而上学), la théologie(神学), la cosmologie(宇宙論), そして、la nigologie(愚学、間抜け学)を連ねたデタラメ語。la nigologieは、le nigaud(間抜け、愚か者) からの造語。これとかはその学の系譜とはいえるね、この本結構面白いよ。http://www.shinchosha.co.jp/book/610490/
  
  訳:パングロス先生は形而上学的-神学的-宇宙論的-間抜け学を教えていた。

2. Il prouvait admirablement qu’il n’y a point d’effet sans cause,
  彼は見事に原因がなければ結果は全くないということを証明していた、

3. et que, dans ce meilleur des mondes possibles, le château de monseigneur le baron était le plus beau des châteaux, et madame la meilleure des baronnes possibles.
  - et que は、il prouvait que の繰り返しだよ。
 そして、可能世界のなかの最良のこの世界において、男爵閣下のお城は可能な城の中でも最も立派、奥方は可能な男爵夫人のなかでも最良のご奥様であることを証明していた。

はい、したがって、第四パラグラフをまとめると、
   Pangloss enseignait la métaphysico-théologo-cosmolo-nigologie. Il prouvait admirablement qu’il n’y a point d’effet sans cause, et que, dans ce meilleur des mondes possibles, le château de monseigneur le baron était le plus beau des châteaux, et madame la meilleure des baronnes possibles.
 パングロス先生は形而上学的-神学的-宇宙論的-間抜け学を教えていた。彼は原因なくば毫も結果ありえず、また、可能世界中のこの最善世界において、男爵閣下の城は可能城の中で最善のもの、奥方は可能夫人のなかで最善の方であることを証明してみせていた。

知識の註:「最善世界論 le meilleur des mondes possibles」と「充足理由律 le principe de raison suffisante」
ここでちょっと知識の註です。
第一回ですでに紹介したように、『カンディード あるいは楽天説』は、ライプニッツの「最善世界説」を論駁するために書かれています。そのライプニッツの形而上学の代弁者がパングロス先生なんです。ちなみにパングロス Pangloss という名前なんですが、Pan は「全て(汎)」、glossはギリシャ語のglossa「舌」、つまり「口舌」、ということは「口舌の徒」と日本語でいうように、「ことば」だけということだね。Panglossはだから「すべてはことば」という意味だ。ライプニッツは「la métaphysique 形而上学」、「la théologie神学」、「la cosomologie 宇宙論」を得意としていた大哲学者だったから、「la métaphysico-théologo-cosmolo-nigologie 形而上学的-神学的-宇宙論的-間抜け学」と皮肉っている。「il n’y a point d’effet sans cause 原因のないところに結果なし」は、ライプニッツの「le principe de raison suffisante充足理由律」を述べている。
https://fr.wikipedia.org/wiki/Meilleur_des_mondes_possibles
https://en.wikipedia.org/wiki/Best_of_all_possible_worlds
https://fr.wikipedia.org/wiki/Principe_de_raison_suffisante
https://ja.wikipedia.org/wiki/充足理由律
Wikipediaをとくに勧めているわけではない。哲学について詳しい正確な知識を調べるためには、The Stanford Encyclopedia of Philosophy を勧めます。PDFでダウンロードするのでなければ、無料だよ。https://plato.stanford.edu/index.html
https://plato.stanford.edu/entries/sufficient-reason/




[4] 第一章 第五パラグラフ
Il est démontré, disait-il, que les choses ne peuvent être autrement : car tout étant fait pour une fin, tout est nécessairement pour la meilleure fin. Remarquez bien que les nez ont été faits pour porter des lunettes, aussi avons-nous des lunettes. Les jambes sont visiblement instituées pour être chaussées, et nous avons des chausses. Les pierres ont été formées pour être taillées, et pour en faire des châteaux ; aussi monseigneur a un très beau château ; le plus grand baron de la province doit être le mieux logé : et les cochons étant faits pour être mangés, nous mangeons du porc toute l’année : par conséquent, ceux qui ont avancé que tout est bien ont dit une sottise : il fallait dire que tout est au mieux.

そろそろ、いちいち一文ずつ解説する必要はなくなってきたように思います。
このパラグラフは、disait-il, (彼は言っていた)という挿入句が示しているように、パングロス先生の言葉の直接話法的独白です。だから、現在時制なんだよ。

Il est démontré, disait-il, que les choses ne peuvent être autrement :
書き言葉では、ne… pas の否定文で、pas を書かないことはよくあるんだ。とくにpouvoir やsavoirといった動詞や助動詞的動詞が使われる場合に。
ここもそのケース、il est démontré que les choses ne peuvent pas être autrement.
「物事が別様ではあり得ないことは証明されている」

car tout étant fait pour une fin, tout est nécessairement pour la meilleure fin.
この文で、tout étant fait pour une fin この現在分詞句が初出だね。

新文法知識 3 「現在分詞 participe présent」
フランス語にももちろん「現在分詞 participe présent」があります。石井文法では第12課での学習事項です(p.61 sq.)。
 [形]としては半過去の語幹に語尾 –ant を付けます。avoir はayant、savoirがsachant だけが例外。
 [用法]については石井さんの該当箇所を読んでください。(p.61 sq.)。
複合形もあって、それも難しくはない。(p.62)
 さて、ここのtout étant faitは、厳密に言うとじつは意外と難しい現在分詞の用法でね、石井先生のp. 62 「(3) 絶対分詞節」をまず見てください。
「(3)絶対分詞節
現在分詞節が主文の主語とは異なる主語を独自にもったものを「絶対分詞節」と言い、多くのケースでは理由を表す副詞節に相当する。
 Son père étant malade, il est resté à la maison toute la journéee.
 ( = Comme son père était malade, …) 」(石井 p.62)
 「彼のお父さんが病気だったから、彼は一日中家に残っていた。」
現在分詞句はson père を主語にしていて、主文のil はお父さんではなく、息子の彼(il)というのが、この石井教科書の例文だ。普通の現在分詞句を副詞句的に使った構文では、現在分詞の主語と、主文の主語が一致しているから、ふつう現在分詞の主語は文のなかには明示されない。
 石井さんのその前の頁(p.61)の③の一番目の例文を見てみよう。
  Etant malade, il est resté à la maison toute la journée.
  病気だったから、彼は一日中家に残っていた。
 こういうのが普通の現在分詞構文で、現在分詞句は「理由」を表している。

 ところが、私たちのカンディードの文、
car tout étant fait pour une fin, tout est nécessairement pour la meilleure fin.
「というのも(car)、全てはある一個の目的のために作られているのだから、全ては必ず最善の目的のためである。」
この文、文法的にちょっと変な文なんだ。
現在分詞句の主語 tout と主文の主語toutは同じなんだから、絶対分詞構文ではなくて、現在分詞句の主語toutは現れる必要がないはずなんだ。
 これはなぜなんでしょうか?


 我思うに、ここには文法的な齟齬以上の内容面に関わる理由が影響しているように思います。
 「全ては何らかの目的をもつことになっている、したがって、全ては必然的に最善の目的のためにある」、ここには論理的な飛躍があって、したがって、二つのtout は内容的には同じtoutではないわけなんだ。パングロス先生の論理のなかでは、「すべては最善の目的のためのものである」という最善説のドグマがあるので、「あるひとつの目的のために une fin」ために作られている、行われている、ということの全てが、「最善の目的のため」と同値とされてしまっているのだね。だから、文の上でも二つの「全て tout」はちがう「全てtout」であって、その論理的な段差を示すために、簡単に現在分詞の主語を省略するわけにはいかない、というわけ。
 ベン図でいえば、B「全てはなんらかの目的をもつ」、A「全ては最善の目的のため」という二つの集合の「全て」の構成メンバーは同値にならないのに、パングロス先生のなかでは一致するというわけだ。なぜだと思う? 「全て」とは何か? という形而上学的、神学的(そして、たぶん「間抜け学」的な)な問題がそこにはたぶん顔をだしているね。
 
Il est démontré, disait-il, que les choses ne peuvent être autrement : car tout étant fait pour une fin, tout est nécessairement pour la meilleure fin.

Il est démontré que ... の Il は que 以下を受ける形式主語。(石井文法 p.44)

だから、
彼(パングロス先生)は言っていた:「物事は別様にはありえないことは証明されておる。なぜなら全ては一定の目的のためにつくられておるのであるから、全ては必然的に最善の目的のためにあるのじゃ。」

むーん、本当かなあ?

Remarquez bien que les nez ont été faits pour porter des lunettes, aussi avons-nous des lunettes.
よく考えてご覧なさい(Remarquez bien que) 。鼻はメガネをかけるために出来ておる。したがって、我らはメガネというものを持っておるのじゃ。

aussi は、副詞と接続詞があります。接続詞は、文頭に置かれるとしばしば後ろの平叙文が倒置されます(aussi avons-nous) 。そして、ここでは 「したがって」という意味です。
aussi
[接続詞] ((文頭で)) したがって,だから,それゆえに;要は,つまるところ;何しろ…だから.[注]主語と動詞を倒置することもある.
L'égoïste n'aime que lui, aussi tout le monde l'abandonne.
エゴイストは自分しか愛さない.だから皆に見捨てられる.
Aussi est-il difficile de fournir des preuves matérielles.
そういうわけで物的証拠を示すのは難しい.
Tu n'as pas compris, aussi c'est ta faute: tu n'écoutes pas. (=après tout)
よく分からなかったのも結局は君が悪い.ちゃんと聞いていないからだ.

Les jambes sont visiblement instituées pour être chaussées, et nous avons des chausses.


脚は見るからにタイツを履くべく設けられておる、そこで我らはタイツを持つのである。
「タイツ chausses」といっても、フランスの18世紀のタイツは
https://ja.wikipedia.org/wiki/ショース
めずらしく日本語のwikiの記述がよい。
まだ履いたことないなあ〜。

因みに、現代の靴は chaussures 靴下はchaussettes です(共に女性名詞 普通は複数形で使います、もちろん)。

Les pierres ont été formées pour être taillées, et pour en faire des châteaux ; aussi monseigneur a un très beau château ; le plus grand baron de la province doit être le mieux logé : et les cochons étant faits pour être mangés, nous mangeons du porc toute l’année :
石どもは切り出されるべく、そして城をつくるべく形作られたのであって、そこで殿は素晴らしき城をお持ちなのであり、国のもっとも偉大なる男爵さまには最もよくお住まいいただくのでなければならないのじゃ。また、豚どもは食されるべく作られておるのであ〜るからして、我らは一年をとおして豚肉を食らうのである。

pour en faire des châteaux:この中性代名詞のen 分かるかな? (石井文法 第11課 p.56 sq.)
「北鎌フランス語」のお世話になりましょう。とても分かりやすいよ、この解説。ぜひ読もう。
http://class.kitakama-france.com/index.php?フランス語中性代名詞#content_1

les cochons étant faits pour être mangés, nous mangeons du porc toute l’année
ここが、さっき上で、石井教科書を見た「絶対分詞構文」なんだよ。

par conséquent, ceux qui ont avancé que tout est bien ont dit une sottise : il fallait dire que tout est au mieux.
したがって、全ては善いと述べた者どもは譫(たわごと)を申したのである。なんとならば、すべては最善である、と言うべきであったのじゃ。


celui qui, ceux qui については、やはり「北鎌フランス語」の次を見てください。
「北鎌フランス語」いいな、やっぱり。
http://class.kitakama-france.com/index.php?フランス語関係代名詞%20II
このリンクなかなかアクセスできにくいようなので、
http://class.kitakama-france.com
へ行って、「関係代名詞II」を探し、
「先行詞 celui, ceux」を探してください。
ceux (「...な人々」)
  Ce cours est destiné à ceux qui souhaitent approfondir leurs connaissances en français.
   (この講座は、フランス語に関する知識を深めることを希望する人々に
   向けられている)
être au mieux : 「最良(ベスト)の状態である」

ま、ざっとこんな感じとなります。

第五パラグラフはしたがっておよそ以下の通りじゃ!

Il est démontré, disait-il, que les choses ne peuvent être autrement : car tout étant fait pour une fin, tout est nécessairement pour la meilleure fin. Remarquez bien que les nez ont été faits pour porter des lunettes, aussi avons-nous des lunettes. Les jambes sont visiblement instituées pour être chaussées, et nous avons des chausses. Les pierres ont été formées pour être taillées, et pour en faire des châteaux ; aussi monseigneur a un très beau château ; le plus grand baron de la province doit être le mieux logé : et les cochons étant faits pour être mangés, nous mangeons du porc toute l’année : par conséquent, ceux qui ont avancé que tout est bien ont dit une sottise : il fallait dire que tout est au mieux.
パングロス師曰く、物事は別様にはありえないことは証明されておる。というのも、全ては一定の目的のためにつくられておるのであって、したがって全ては必然的に最善の目的のためにある。考えてもみよ、鼻は眼鏡をかけるために出来ておる。したがって、我らは眼鏡というものを持っておるのじゃ。脚とは見るからにタイツを履くべく設けられておるのであって、そこで我らはタイツを持つのである。石どもは切り出されるべく、そして城をつくるべく形作られたのであって、而して殿は素晴らしき御城をお持ちなのであり、国のもっとも偉大なる男爵さまにはこの上なく最良にお住まいいただくのでなければならないのじゃ。また、豚どもは食されるべく作られてお〜るのであ〜るからして、我らは一年をとおして豚肉を食らうのである。それゆえ、全ては善いと述べた者どもは譫(たわごと)を申したのである。なんとなれば、全ては最善である、と言うべきであったのじゃからな。



 今日は八月一五日。
 この世界は本当に、「可能世界のなかの最善の世界 le meilleur des mondes possibles」なのだろうか?
 カンディード君と同じ問いの前に立つにふさわしい頃だね。

では、また、来週。



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